★ ノウタケ(脳茸)
ようやく秋らしくなってきた。サクラの葉もすっかり散って、冬へ向かう準備をはじめているのだろう。自然や動植物は、四季に応じていろいろな彩を見せてくれたり移り変わりを楽しませてくれる。鮎川沿いのサクラも散り終わり、サクラの根元を覆っていた雑草もすっかり刈り取られ、景観が著しく広がった。
草刈りが終わって幾日か経ってサクラ並木の遊歩道を歩いていて、思いもよらぬキノコを発見した。ソフトボールくらいの大きさのキノコだ。よく見ると、キノコの傘の表面が人間の脳のような模様をしている。毎日、この遊歩道を歩いているのに気づかなかったのはうかつだった。早く発見していれば、胞子を見ることができたのにと悔やんだ。
脳のような模様の入ったキノコのことは、以前友人のキノコ博士から聞いてはいたが、実物を見たことはなかった。このように脳のようなキノコがノウタケ(脳茸)と聞いていたのはうっすらと記憶にとどめていたが、実際に見たのは今回が初めてだ。早速、デジカメで撮ってその場を離れたが、誰かに触れられて取られたりしまうのではないか、という不安があった。自然世界で日の出を見たキノコをもぎ取るわけにもいかない。誰にも採られないことを祈りながらその場を離れた。
翌日、ノウタケは誰の手にもかかっていなかった。ただ、大きな変化があった。傘の表面が濃い目のチョコレート色に変わっていた。ノウタケの傘の色が1日で変化することはキノコ博士も話してなかったので驚いた。また、次の日に見ると形が変化し始めていた。形が変わっていく様に興味を覚える。そうか、このように形を変えながら土にかえり、来年は再びここに姿を見せてくれるのだなと思うと、来年が楽しみになってくる。
ノウタケは毒キノコではないという。実際に食べた人が何人もいるようだ。傘の表面がまだ白いうちになかを割ると中は、見ためでは白い食パンのような感じだと。食べたところはんぺんのようなネットリした淡泊感があり、きちんと味付けをすれば美味しく食べられるということだ。といって、食べるか、と聞かれると食べる気がしない。ノウタケを発見した場所付近は毒キノコのサクラ茸が姿を現すところだ。キノコ博士は「野生のキノコは毒がないといわれても、絶対に食べてはいけない」いうのが口癖だった。
★ キノコ中毒
キノコを原因とする食中毒患者が毎年50人から100人くらい発生しているという。特に多い地域は、長野県・東北地方・北海道といわれている。なぜ、多いのだろうか。これらの地方は、昔から野生のキノコを採って食べるという習慣があったからだともいわれている。毒キノコと分からず食べて中毒になる時期は、キノコの最盛期の9月から11月の間といわれる。キノコ狩りのシーズンで、キノコ好きな人には、野生のキノコの魅力というか魔力には勝てず引きずり込まれてしまうのだろう。
近くの保健所に、キノコ博士のようにキノコに詳しい職員がいた。会う機会があってキノコの話になったとき「キノコを見て毒の有無を見極めるのは難しい。毒があるかないかを持ち込まれても、明確な返答はできない。要は、野生のキノコは絶対に食べないということが鉄則です」といっていた。
野生のキノコを食べて中毒になり、その症状に対応した手当をしなければならないが、嘔吐や下痢だと点滴で済むかもしれない。その一方で、腎臓に影響を及ぼせば透析なども考えなければならなくなる。このような事態にならないようにするには、早い処置が必要だけれど、要は野生のキノコは食べないことに尽きるのでは….。
★ キノコによる中毒症状の形態
厚労省のホームページや慈恵病院の薬師寺副委員長のブログなどでは、有毒植物による中毒について、食用と確実に判断できない植物(特に、キノコ)は,絶対に採らない・食べない・売らない・人にあげない、と啓発している。キノコ中毒の障害例は数多くあり、医療機関などは一般の人々に啓発している。
● 障害例
* 消火器障害
・ 食べて数分後から数時間くらいで嘔吐や下痢・悪寒・発熱・手足のしびれ・倦怠感など普段と違った症状になる。また、喉の渇き・粘膜のびんらん・脱毛などの症状も見られ、これらが進行すると腎不全・消火器不全・脳障害などにより死に至ることもあるといわれる。キノコ中毒で半分を占めるのは、主にツキヨタケ・クサウラベニタケ。
* 神経障害型…副交感神経刺激・副交感神経麻痺・幻覚作用などいろいろな形がある。特に、マジックマッシュルームは幻覚作用を起こすことで有名なので、要注意。
・ 副交感神経刺激
発症が早く摂食後10~30分で激しい発汗・腺分泌の亢進が始まり、縮瞳により視力障害・血圧低下・意識喪失などの症状が見られる。
・ 副交感神経の麻痺
摂食後30分以降に、異常な興奮・流涎・散瞳による視力障害・うわ言・幻覚といった症状が見られ、これらが進行すると痙攣や筋硬直が起きる。
・ 幻覚作用(中枢神経麻痺型)
摂食後30分から1時間で幻覚・幻聴が起きたり、知覚麻痺・めまい・言語障害などが見られ、重症化すると精神錯乱・筋弛緩などを起こし、意識不明となることもある。
* 原型質毒性型
キノコの仲間は特に致死量になるものが多く、様々な臓器や細胞に作用して致死量が高い。摂食してから半日までに激しい嘔吐や腹痛・下痢などを生じ、数日後み肝障害・腎障害を起こし,死に至る。毒素は火を通しても分解されないといわれ、いくら加熱しても毒素は分解しないから無駄な抵抗でもある。
★ 身近なキノコ
* ハタケコガサ
腐葉土を好んで発生する。赤茶色の小さなキノコが畑などの腐葉土に菌輪を描くようにして発生する。全体に肉が薄く、軽く見た目ではキャシャで可愛らしいキノコである。キノコの傘が湿ると、傘の表面に条線が現れる。毒キノコではないが食用には向かない。食べないに越したことはない。安全第一である。
* ウスキテングタケ
梅雨期から秋にかけてコナラ・クヌギ・樫などの広葉樹林やアカマツやカラマツなどの針葉樹林が混在する林内に点々と発生する。このウスキテングタケは有毒キノコであり、食べると発汗・意識混濁・嘔吐・下痢などの症状を起こすので絶対に食べないこと。
★ 専門家も間違えるキノコの有毒判断
キノコの傘には、白だとかピンクなどがあり、可愛いというか美しい。美しいがゆえに毒を持つキノコは多い。キノコの外見を見ただけで毒がないと勝手に判断して摂食すると、とんでもないことになりかねない。キノコは、胞子のころから見ていると可愛くて、毒がないキノコだといわれても採ったり食べたりはとてもできない。友人のキノコ博士も毒の有無を間違ったことがあり、大丈夫だと判断して食べ、死地をさまよった経験があるといった。
ときどき耳にするのが、道の駅で買ったキノコを食べて食中毒になったというニュースだ。道の駅で販売しているキノコがやばいというのではない。たまたま、判断に狂いが生じたことなのだが、毒キノコか毒でないキノコかよく見ていると似ている。そこから判断が間違いやすい。とにかく、毒キノコかどうか素人判断をしないこと。キノコ栽培者がキノコなら安心して食べられるので、キノコを見るときはよく注意して買いたいものです。
(参考資料:Wikipedia)